5. 読者は幟をどう生かしていったらよいか?:
・ 明治39年までの幟旗:
1) 優れた絵画・文字の幟は、日本民衆美術の貴重な文化遺産であり、現状のまま保管又は
鑑賞する。
幟が評価されなかった理由:
・ 大き過ぎ、一般家庭では飾れない「今まで町のギャラリーから、著名美術館まで展示してきたが
どのような環境でも十分に、鑑賞することは可能。」
・ 著名落款がないから、商品価値がない
・ 「浮世絵師や著名書家等による作品が多いが、彼らの本職としての産物ではないので、著名
落款がないのが普通。純粋な美意識による選定が可能。」
2) 過酷な生活環境の下、日々生命の安泰を願う、江戸民衆の「祈り」拠り所であった幟を、切り刻み、たとえ
現代民衆の衣服に再生させたとしても、罰があたる。
3) 戸外に立てられたものであり、百年以上経てきたものであり、風雨に耐え、傷を負った幟も多い。
古い糸による修復をして、更に寿命をのばしてやるべき。
4) 生き残った幟たちは、晴れの舞台に出て現代の日本はもとより世界の人々にその魅力を鑑賞して
欲しいと思っている。
・ 明治39年以降の幟旗:
1) 文明開化を迎えた民衆は、「生命の安泰を願う祈り」から「金儲けの祈り」に祈る対象を変えてしまった。
したがって、絵幟の絵柄も定型化し、金のご利益があるように華美な化学染料による色彩、省力化のため
の型染の世界に急速に変化した。
この時期の幟には、生命の安泰の祈りは無いので、使用されなくなった幟旗はリフォームの材料に供
されて、新しいコートなどに再生されても良いと思う。
2) 幟の親類として、大漁旗があり、大漁を祈願するために強烈な色彩、勇ましいデザインの旗が、漁港の祝祭
の時に、一杯翻る光景は、味わいのあるものである。
使用済の大漁旗の中には、漁師たちの祈りが表出したものも多く、絵画的に優れたものは、将来、文化遺産
として認められることも想定される。
3) やはり、幟旗の親類に「鯉幟」がある。
江戸中期位から、幟旗の脇役として登場し、やがて独立したものである。
明治末位までは、基本的に紙製で、黒幟(真鯉)だけであったが、大正以降木綿製のものが多く普及した。
江戸期の紙製の鯉幟は資料的に貴重であり、保存されるべきであろう。
木綿製の使用済みの鯉幟はリフォームの材料として再生することは良いことと思う。
杉浦和子さんの得意技!
6) 幟についての今後の展望:
・ 過去に、東京大崎のウエストギャラリー、国際基督教大学博物館、日本民藝館、渋谷松涛美術館、熊本
現代美術館、オランダ・ロッテルダムワールド美術館等で展示を行って、いずれも大層、好評を得てきた。
・ そこには、未知であった江戸期の心揺すられる大型の絵画や文字の世界の広がりに、圧倒され、自然
に感嘆の声をあげる観客が溢れていた。
・ しかし、西洋絵画や日本の有名社寺の宝物展、著名な作家展等の紹介に比べると、一般への啓蒙は
まだまだ、不足しているいるのが、現状である。
・ 日本人のDNAの中には、長い歴史に育まれた祝祭に鼓舞するものが強く流れている。
民衆美術・地方の神楽・能狂言、人形浄瑠璃、盆踊り・民謡・方言などは世界中で、日本独自の文化遺産
であり、日本政府が保存・育成していかねば、消滅の危機に立たされることになる。
日本の宝だけでなく、それらは、世界の宝なのである。
・私はライフワークとして、江戸期の幟の魅力について、展示・講演・執筆等及び活動に、努めていく所存です。
2015年2月25日 発売、学研「古布に魅せられた暮らし」